【労働問題】みなし労働時間(事業場外労働,裁量労働制)

2018-03-29

残業代請求事件では,使用者側が,みなし労働時間の主張をしてくることがあります。

 

一 みなし労働時間

労働時間は実労働時間で把握するのが原則ですが,みなし労働時間制が採用される場合には,実際の労働時間にかかわらず,一定時間,労働したものとみなされます。

例えば,みなし労働時間が8時間の場合,12時間働いても,8時間働いたものとしかみなされません。そのため,本来,12時間働いた場合には,法定労働時間である8時間を超える4時間分は時間外労働となりますが,みなし労働時間が8時間であれば,8時間働いたものとしかみなされず,使用者は時間外労働の割増賃金を支払う必要がなくなります。
みなし労働時間制が採用されると,労働者がみなし労働時間を超える時間の労働をしても,使用者はその分の割増賃金を支払わなくてよくなりますので,使用者に濫用される危険があります。
そのため,みなし労働時間制を適用するための要件を満たすかどうかは厳格に判断されます。

 

二 みなし労働時間制がとられる場合

みなし労働時間制がとられる場合として,①事業場外労働(労働基準法38条の2),②専門業務型裁量労働制(労働基準法38条の3),③企画業務型裁量労働制(労働基準法38条の4)があります。

 

1 事業場外労働

労働者が事業場外で労働をしており,労働時間を算定し難いときは,所定労働時間,労働したものとみなされます(労働基準法38条の2第1項本文)。ただし,業務を遂行するために所定労働時間を超えて労働することが必要な場合は,通常必要とされる時間,労働したものとみなされます(同項但書)。
事業場外労働のみなし労働時間制は,使用者が労働者の実労働時間を把握することが困難であることから例外的に認められるものです。
そのため,労働者が事業場外労働をしている場合であっても,実労働時間の把握が困難とはいえないときは,みなし労働時間制をとることはできません。

 

2 専門業務型裁量労働制

業務の性質上,その遂行方法を労働者の裁量にゆだねる必要があるため,業務遂行の手段,時間配分の決定等に関し使用者が具体的な指示をすることが困難なものとして厚生労働省令で定める一定の業務(対象業務)については,一定の要件のもと,みなし労働時間制をとることができます(労働基準法38条の3,労働基準法施行規則24条の2の2)。
専門職で裁量のある労働者について適用されるものです。
対象業務であっても,補助的な業務にすぎない場合や使用者の具体的な指示を受けている場合等,労働者に裁量がない場合には,みなし労働時間制をとることはできません。

 

3 企画業務型裁量労働制

事業の運営に関する事項についての企画,立案,調査及び分析の業務であって,業務の性質上これを適切に遂行するには遂行方法を大幅に労働者の裁量にゆだねる必要があるため,業務遂行の手段,時間配分の決定等に関し使用者が具体的な指示をしない業務(対象業務)に,対象業務を適切に遂行するための知識,経験等を有する労働者が就く場合には,一定の要件のもと,みなし労働時間制をとることができます(労働基準法38条の4,労働基準施行規則24条の2の3)。
企業の本社等の中枢部門で企画,立案,調査,分析の業務を自らの裁量で遂行するホワイトカラーの労働者について適用されるものです。
労働者の個別的な同意があることが要件となっています。また,労働者に裁量がない場合は,みなし労働時間制をとることはできません。

 

三 休日労働や深夜労働との関係

みなし労働時間は,労働時間の算定について適用されるものであり(労働基準法施行規則24条の2第1項,24条の2の2第1項,24条の2の3第2項),休日労働や深夜労働には適用されません。
そのため,みなし労働時間が適用される場合であっても,労働者が休日労働や深夜労働をすれば,使用者は割増賃金支払義務を負います。

 

四 まとめ

みなし労働時間と認められる場合には,実労働時間にかかわらず,一定の時間労働したものとみなすため,使用者が,残業代の支払を免れるため,みなし労働時間制を濫用する危険性があります。
そのため,要件を満たすかどうか厳格に判断されることになりますので,使用者側が裁量労働制等のみなし労働時間を主張してきたとしても,その主張が認められることは容易ではありません。

 

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