【債権回収】支払督促

2014-12-12

一 支払督促とは

支払督促とは,金銭その他の代替物または有価証券の一定数量の給付を目的とする請求権について,簡易裁判所の書記官が債権者の申立により書類審査だけで発することができる手続です。

簡易裁判所の書記官が書類審査を行うだけですので,当事者が法廷へ出頭することや立証することは必要はありません。

また,訴額(訴訟の目的の価額)にかかわらず利用できます。

支払督促に仮執行宣言が付されると,債権者は簡易迅速に債務名義を得て,強制執行することができます。

他方,債務者の利益をまもるために,債務者が異議を申し立てた場合には,通常の訴訟手続に移行します。

 

二 支払督促が利用できる場合

金銭その他の代替物又は有価証券の一定の数量の給付を目的とする請求については,支払督促の申立てをすることができます(民事訴訟法382条本文)。

ただし,日本において公示送達によらないでこれを送達することができる場合に限ります(民事訴訟法382条但書)。

 

三 どこに申立てるのか

1 原則として債務者の住所地を管轄する簡易裁判所の裁判所書記官に申し立てます

支払督促の申立ては,債務者の普通裁判籍(個人の場合,住所,住所が知れないときは居所,日本国内に居所がないとき又は居所がないときは最後の住所地。法人の場合,主たる営業所・事務所,事務所・営業所がないときは代表者その他の主たる業務担当者の住所)の所在地を管轄する簡易裁判所の書記官に対して行います(民事訴訟法383条1項)。

ただし,事務所又は営業所を有する者に対する請求でその事務所又は営業所に関するものは,当該事務所又は営業所の所在地を管轄する簡易裁判所の書記官に対しても申し立てることができますし(民事訴訟法383条2項1号),手形・小切手による金銭の支払請求及びこれに附帯する請求については,手形・小切手の支払地を管轄する簡易裁判所の書記官に対しても申し立てることができます(民事訴訟法383条2項2号)。

2 訴訟との違い

(1)訴額に制限はありません

訴訟の場合には,訴額(訴訟の目的の価額)が140万円を超えない場合は簡易裁判所が,訴額が140万円を超える場合には地方裁判所が管轄裁判所となりますが(事物管轄),支払督促の申立てには訴額の制限はないので,140万円を超える場合にも簡易裁判所の書記官に申し立てます。

ただし,債務者が異議を申立て,訴訟に移行した場合,訴額が140万円を超えるときは,地方裁判所で訴訟手続が行われることになります。

(2)特別裁判籍の規定の適用はありません

訴訟の場合,被告の住所地等普通裁判籍以外の土地にも管轄が認められますが(特別裁判籍),支払督促では,民事訴訟法383条2項の場合を除き,普通裁判籍のみです。

そのため,例えば,訴訟では,義務履行地として,原告(債権者)の住所地を管轄する裁判所で手続を行うことができる場合であっても,支払督促では債務者の住所地を管轄する簡易裁判所の書記官に申し立てなければならず,債務者が異議を申し立てた場合には,債務者の住所地を管轄する裁判所で訴訟手続が行われることになります。

債務者の住所が遠方にある場合,支払督促を申立てをすると債務者の異議申立てにより,遠方の裁判所に行かなければならない事態が生じますので,債権者の住所地で訴訟提起できる場合には,はじめから支払督促ではなく,訴訟提起することを検討すべきでしょう。

四 手続の流れ

1 申立て

簡易裁判所の書記官に支払督促の申立てをします(民事訴訟法383条)。

申立ては,書面または口頭で行うことができますが,申立書を提出して行うのが一般的です。

また,電子情報処理組織による督促手続もできます(民事訴訟法397条から402条)。

申立てにあたって,書証の添付は不要ですが,手形・小切手訴訟によることを明記して支払督促の申立てをするときは,手形・小切手の写しを添付する必要があります(民事訴訟規則220条)。

 

2 裁判所書記官による支払督促の発付

支払督促の申立てが民事訴訟法382条,383条に違反するとき,申立ての趣旨から請求に理由がないことが明らかなときは申立ては却下されますが(民事訴訟法385条1項),そうでない場合には,裁判所書記官は,債務者に対する審尋をすることなく支払督促を発します(民事訴訟法386条1項)。

 

3 債務者への送達

支払督促は,債務者に送達され(民事訴訟法388条1項),債務者に送達されたときに効力が生じます(民事訴訟法388条2項)。

なお,債権者が申し出た債務者の住所,居所,営業所,事務所,就業場所がないため,送達ができない場合,書記官は債権者にその旨通知し,債権者が通知を受けた日から2月以内に他の送達すべき場所の申出をしないときは,支払督促の申立ては取り下げたものとみなされます(民事訴訟法388条3項)。

 

4 仮執行宣言

債務者が支払督促の送達を受けた日から2週間以内に督促異議の申立てをしない場合には,裁判所書記官は,債権者の申立てにより,仮執行宣言をし(民事訴訟法391条1項),仮執行宣言を支払督促に付して当事者に送達します(民事訴訟法391条2項)。

債権者が仮執行宣言の申立てができるときから30日以内に申立てをしないときは,支払督促は効力を失います(民事訴訟法392条)。

仮執行宣言を付した支払督促の送達を受けた日から2週間を経過すると,債務者は督促異議の申立てをすることができなくなります(民事訴訟法393条)。

 

5 債務者が異議の申立てをしなかった場合

仮執行宣言を付した支払督促に対し,督促異議の申立てがない場合又は申立てを却下する決定が確定したときは,支払督促は確定判決と同一の効力を有し(民事訴訟法396条),債権者は,強制執行をすることができます。

ただし,支払督促には,既判力(前の裁判の内容を争うことができなくなる効力)はありませんので,債務者は請求異議の訴えを提起し,すべての事由をもって債権者の請求を争うことができます。

 

6 債務者が異議を申し立てた場合

債務者が適法な異議の申立てをした場合には,支払督促の申立て時に簡易裁判所または地方裁判所に訴えを提起したものとみなされ(民事訴訟法395条),通常の訴訟手続に移行します。

目的の価額が140万円を超えない場合は簡易裁判所,目的の価額が140万円を超える場合は地方裁判所の訴訟手続に移行します。

 

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