【借地借家問題】賃料(地代・家賃)の増減額請求

2019-09-03

借地契約や借家契約において,現行の賃料(地代・賃料)の額が不相当となった場合には,賃貸人が賃借人に対し賃料の増額を請求することや,賃借人が賃貸人に対し賃料の減額を請求することができます。

 

一 賃料(地代・家賃)の増減額請求

1 賃料の増減額請求

借地契約や借家契約において,現行の賃料が不相当となったときは,契約の条件にかかわらず,当事者は,将来に向かって地代等の額の増減を請求することができます(借地借家法11条1項,32条1項)。

借地借家法11条1項,32条1項は強行規定であり,当事者は,現行の賃料が不相当となったときは,契約の条件にかかわらず,賃料の増減請求をすることができます。
ただし,一定期間,賃料を増額しない旨の特約は有効であり,その旨の特約がある場合には,一定期間内,増額請求はできません(借地借家法11条1項但書,32条1項但書)。また,定期建物賃貸借契約については,賃料の増減請求を排除する特約も有効です(借地借家法38条7項)。

 

2 増減請求権の効果

賃料の増減請求権は形成権であり,増減請求の意思表示が相手方に到達した日から将来に向かって賃料を増減させる効果が生じます。

 

3 増減請求の意思表示

賃料増減請求の意思表示は口頭でも書面でもかまいませんが,請求の有無や相手方に到達した時期が争いとなるおそれがありますので,証拠を残しておくため,配達証明付きの内容証明郵便で請求しておいたほうがよいでしょう。

 

二 賃料が不相当となった場合

借地契約や借家契約において,現行の賃料が,事情の変更により不相当となったときは,賃料の増額請求や減額請求をすることができます。

賃料が不相当かどうかを判断する事情として,借地借家法11条1項では,借地契約の場合は①土地に対する租税公課の増減,②土地の価格の上昇・低下その他の経済事情の変動,③近傍類似の土地の地代等との比較が例示されていますし,借地借家法32条2項では,借家契約の場合は①土地・建物に対する租税その他の負担の増減,②土地・建物の価格の上昇・低下その他の経済事情の変動,③近傍同種の建物の賃料と比較が例示されています。

賃料が不相当かどうかは,諸般の事情を考慮して判断されますので,現行の賃料額を定めた経緯や賃料額決定の重要な要素となっていた当事者間の個人的事情の変化等の事情も考慮されます。賃料を定めてから相当期間が経過したことも不相当かどうかを判断する事情の一つとはなりますが,賃料を定めてから相当期間が経過していなくても,その間に賃料が不相当となっていれば賃料増減請求ができます。

 

三 相当な賃料額

相当な賃料額は,不動産鑑定評価基準によって算出した継続賃料の額を基に,契約締結の経緯等諸般の事情を考慮して判断されます。継続賃料とは,継続中の契約の賃料改定等をする場合の賃料であり,新しく借りる場合の賃料(新規賃料)とは異なります。

賃料額を算定する手法としては,①利回り法(積算法),②賃貸事例比較法,③スライド法,④差額配分法等,様々な手法がありますが,専門的な知識が必要であり,不動産鑑定士に鑑定を依頼するのが基本です。
もっとも,鑑定費用がかかりますので,地代については,協議や調停のように当事者の合意により地代の額を決める場合には,固定資産税・都市計画税額に一定倍率を乗じて地代の額を算出する方法がとられることもあります。

 

四 増減請求の手続

賃料の増減請求の手続としては,①協議,②調停,③訴訟があります。
手続の流れとしては,①賃貸借契約の当事者の一方が他方に対し賃料の増減請求の意思表示をしてから,当事者で協議をして解決を図り,②協議で解決できない場合には,裁判所に調停の申立をして民事調停手続での解決を図り,③調停手続で解決できなかった場合には裁判所に訴訟提起をして民事訴訟手続で解決を図るのが原則です。

賃料増減請求事件については調停前置主義がとられているため,訴訟提起をする前に調停の申立をしなければならず(民事調停法24条の2第1項),調停の申立をせずに訴訟提起をした場合には,調停に付すことが適当でない場合を除いて調停に付されます(民事調停法24条の2第2項)。

 

五 増減請求を受けた場合の対応

1 賃貸人から賃料の増額請求を受けた場合の賃借人の対応

賃貸人が賃借人に賃料の増額請求をしてきた場合,賃借人は,これに同意できないときは,増額を正当とする裁判が確定するまでは,相当と認める額の賃料を支払えば足ります(借地借家法11条2項本文,32条2項本文)。
ただし,裁判が確定したときに不足額があるときは,賃借人は不足額に年1割の割合による支払期後の利息を付して支払わなければなりません(借地借家法11条2項但書,32条2項但書)。

 

2 賃借人から賃料の減額請求を受けた場合の賃貸人の対応

賃借人が賃貸人に賃料の減額請求をしてきた場合,賃貸人は,これに同意できないときは,減額を正当とする裁判が確定するまでは,相当と認める額の賃料の支払を請求することができます(借地借家法11条2項本文,32条2項本文)。
ただし,裁判が確定したときに超過額があるときは,賃貸人は超過額に年1割の割合による受領期からの利息を付して返還しなければなりません(借地借家法11条2項但書,32条2項但書)。

 

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