【交通事故】自動車損害賠償責任保険(自賠責保険)

2017-12-01

自動車保険には自賠責保険と任意保険がありますが,自賠責保険とはどのようなものでしょうか。

 

一 自動車損害賠償責任保険(自賠責保険)とは

自動車損害賠償責任保険(自賠責保険)とは,自動車損害賠償責任保障法(自賠法)に基づいて契約が強制されている保険であり,自動車の運行によって他人を死傷させたことにより,加害者が被害者に対し法律上の損害賠償責任を負うことによる損害を填補するための保険です(自賠法5条,11条)。
自賠責保険とは別に自動車損害賠償責任共済(自賠責共済)もありますが,ほぼ同じものです。
自賠責保険は人身事故の被害者の保護を目的とするものであり,被害者保護の観点から,強制保険であること,免責事由や過失相殺が制限されていること,被害者請求ができること等の特徴があります。

 

二 自賠責保険により填補される損害

自賠法3条は「自己のために自動車を運行の用に供する者は,その運行によって他人の生命又は身体を害したときは,これによって生じた損害を賠償する責に任ずる。」と規定しており,自賠責保険は,この責任を負うことによる損害を填補するものです(自賠法11条,3条)。
自動車の運行によって他人の生命・身体を害した事故が対象となりますので,自損事故や物損事故は対象となりません。
また,加害者が①自己及び運転者が自動車の運行に関し注意を怠らなかったこと,②被害者又は運転者以外の第三者に故意又は過失があったこと,③自動車に構造上の欠陥又は機能に障害がなかったことを証明したときには,加害者は責任を負いませんので(自賠法3条但書),被害者は自賠責保険から支払を受けることはできません。

 

三 強制保険

適用外自動車(自賠法10条)を除き,自動車を運行の用に供する場合には,自賠責保険か自賠責共済のいずれかと契約しなければなりません(自賠法5条)。契約は,自動車一両ごとに締結します(自賠法12条)。
契約していない自動車を運転すると処罰されます(自賠法86条の3)。

また,強制保険であることから,契約の解除は制限されていますし(自賠法20条の2),保険会社は契約の締結を拒否できません(自賠法24条)。

 

四 免責事由の制限

自賠責保険では,被害者保護の観点から免責事由が制限されており,重複契約の場合(自賠法82条の3)を除いては,保険契約者または被保険者の悪意によって生じた損害についてのみ免責されます(自賠法14条)。

 

五 請求方法

1 被保険者からの保険金請求(加害者請求)

被保険者は,被害者に対する損害賠償額について自己が支払をした限度において,保険会社に対し保険金の支払を請求することができます(自賠法15条)。

 

2 被害者からの損害賠償額の請求(被害者請求)

被害者は,保険会社に対し,保険金額の限度において,損害賠償額の支払を請求することができます(自賠法16条1項)。

 

3 仮渡金の請求

損害賠償責任の有無が賠償額が確定しない場合であっても,被害者は,保険会社に対し,賠償額の一部を仮渡金として請求することができます(自賠法17条)。
仮渡金の額は,死亡の場合は290万円,傷害の場合は,傷害の内容に応じて,40万円,20万円,5万円です(自賠法施行令5条)。

 

六 支払額

保険金等の支払には支払基準があり,請求者には,支払基準で算定した金額が保険金額の限度で支払われます。
自賠責保険では損害賠償額の全額が支払われるわけではありませんので,不足分は加害者に損害賠償請求することになります。

 

1 支払基準

支払基準では,傷害による損害は①積極損害(治療関係費,文書料,その他の費用),②休業損害,③慰謝料,後遺障害による損害は①逸失利益,②慰謝料等,死亡による損害は①葬儀費,②逸失利益,③死亡本人の慰謝料,④遺族の慰謝料とし,それぞれの損害及び金額の算定についての基準を定めています。

 

2 保険金額(支払限度額)

自賠責保険の保険金額は,被害者一人につき,死亡による損害については3000万円,傷害による損害については120万円,介護の要する後遺障害による損害については1級4000万円,2級3000万円,それ以外の後遺障害による損害については1級3000万円,2級2590万円,3級2219万円,4級1889万円,5級1574万円,6級1296万円,7級1051万円,8級819万円 ,9級616万円,10級461万円,11級331万円,12級224万円,13級139万円,14級75万円です(自賠法施行令2条,別表1,2)。
傷害を負ってから死亡した場合の保険金額は傷害の120万円と死亡の3000万円となりますし,後遺障害がある場合の保険金額は傷害の120万円と後遺障害の等級に応じた金額になります。

 

3 減額される場合

(1)重過失減額

自賠責保険では,被害者保護の観点から過失相殺が制限されており,被害者に重大な過失がある場合に限り,損害額(損害額が保険金額以上となる場合には,保険金額)から減額されます。
傷害にかかるものについては,被害者の過失が7割以上ある場合には2割減額され,後遺障害または死亡にかかるものについては被害者の過失が7割以上8割未満の場合には2割,8割以上9割未満の場合には3割,9割以上10割未満の場合には5割減額されます。
なお,被害者の損害額が20万円以下の場合には減額されません。
被害者の過失が7割未満の場合には自賠責保険からの支払額は減額されませんので,自賠責保険の支払額が損害賠償額を上回ることがあります。

 

(2)受傷と死亡・後遺障害との因果関係が不明な場合の減額

被害者に既往症などがあり,死因や後遺障害発生原因が明らかでない場合など,受傷と死亡・後遺障害との間の因果関係の有無の判断が困難な場合には,死亡による損害・後遺障害による損害について損害額(損害額が保険金額以上となる場合には,保険金額)から5割減額されます。

 

七 損害調査

1 損害保険料算出機構の自賠責損害調査センターの損害調査

自賠責保険から支払われるかどうかは,損害保険料算出機構の自賠責損害調査センターの損害調査によります。
損害保険料算出機構の自賠責損害調査センターは,全国に地区本部と自賠責損害調査事務所を設置し,自賠責保険の損害調査を行っています。
損害調査では,自賠法上の請求権の存在,被保険者の賠償責任の有無,損害額の調査が行われます。
また,その中で後遺障害の等級認定も行われます。

 

2 損害調査の流れ

①請求者(加害者または被害者)は,保険会社に対し,自賠責保険の請求書等の必要書類を送ります。
②保険会社は,契約の存在や書類に不備がないことを確認し,自賠責損害調査事務所に書類を送付します。
③自賠責損害調査事務所が損害調査を行います。
特定事案(認定困難事案や異議申立事案)については自賠責保険審査会で審査が行われ,特定事案以外で自賠責損害調査事務所では判断が困難な事案については地区本部や本部で審査が行われます。
④自賠責損害調査事務所は保険会社に調査結果を報告します。
⑤保険会社は支払額を決定し,請求者に支払います。

 

3 調査結果や支払金額に不服がある場合

調査結果や支払金額に不服がある場合は,保険会社に異議申立てをすることができますし,自賠責保険・共済紛争処理機構に紛争処理申請を行うこともできます。

 

八 時効

1 加害者請求の時効期間

加害者請求権の消滅時効期間は以前は2年でしたが,平成22年4月1日以降は3年です(自賠法23条,保険法95条1項)。
加害者は被害者に損害賠償債務を履行した場合に保険会社に請求できますので,時効の起算点は,加害者が被害者に損害賠償債務を履行した日になります。

 

2 被害者請求の時効期間

被害者からの請求権の消滅時効期間は3年です(自賠法19条)。
以前は時効期間は2年であり,平成22年3月31日までに発生した事故の時効期間は2年でしたが,平成22年4月1日以降に発生した事故の時効期間は3年になります。
時効の起算点は,基本的には事故日ですが,後遺障害による損害については症状固定日,死亡による損害については死亡日です。
時効にかかるおそれがある場合には,保険会社に請求するか時効中断の手続を取りましょう。

 

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