【交通事故】後遺症逸失利益

2020-08-31

交通事故により後遺障害を負った場合には,後遺症逸失利益が損害となります。

 

一 後遺症逸失利益とは

後遺症逸失利益とは,後遺症がなければ,将来にわたって得られたであろう利益のことであり,後遺症により,被害者の労働能力が低下し,被害者の収入が減少することによる損害です。

 

事故により仕事ができず,収入が減少したことによる損害としては,休業損害と逸失利益がありますが,休業損害は,事故時から治療終了時(症状固定時)までに発生する損害であるのに対し,後遺症逸失利益は,治療終了後(症状固定後)から将来にわたって発生する損害です。

 

二  後遺症逸失利益の計算式

後遺症逸失利益の額は,以下の計算式でします。

 

後遺症逸失利益

=基礎収入額×労働能力喪失率×労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数

 

後遺症逸失利益は,後遺症により,被害者の労働能力が低下し,将来にわたって被害者の収入が減少することによる損害ですが,損害賠償を請求する時点では将来いくら減収するかわかりませんので,被害者の収入(基礎収入)が労働能力の低下の割合(労働能力喪失率)に応じて減少するものと推定して,後遺症逸失利益の額を算定します。

 

また,後遺症逸失利益の賠償は一時金払いによることが通常であり,一時金払いの場合には,将来にわたって得られたであろう利益を現在価値に換算することになるため,中間利息を控除します。中間利息の控除の方法にはライプニッツ式(複利計算)で計算することが通常です。

 

なお,死亡逸失利益の場合には生活費を控除しますが,後遺症逸失利益の場合には生活費を控除しないのが原則です。

 

三 基礎収入

1 給与所得者の場合

原則として,事故前の現実の収入額を基礎収入とします。

ただし,将来,現実収入額以上の収入を得られる蓋然性があれば,その金額が基礎収入となります。

また,現実の収入額が賃金センサスの平均賃金を下回っていても,将来,平均賃金程度の収入を得られる蓋然性があれば,賃金センサスの平均賃金が基礎収入と認められます。

若年労働者の場合は,事故時の収入が低いので,平均賃金を用いることが多いです。

 

2 事業所得者の場合

所得税の申告所得をもとに基礎収入を算定します。

申告額と現実の収入が異なる場合,実収入を立証できれば,その金額が基礎収入となります。

現実の収入額が賃金センサスの平均賃金を下回っていても,将来,平均賃金程度の収入を得られる蓋然性があれば,賃金センサスの平均賃金が基礎収入と認められます。

 

家族が事業を手伝っている場合には,所得額のうち被害者本人の寄与割合を乗じた額が基礎収入となります。

 

3 会社役員の場合

報酬額全額が基礎収入となるわけではありません。会社役員の報酬には労務対価部分と利益配当部分があり,基礎収入となるのは労務対価部分です。

 

4 年少者,学生の場合

賃金センサスの産業計,企業規模計,学歴計,男女別全年齢平均賃金額を基礎収入としますが,女子年少者の場合は,全労働者の全年齢平均賃金を基礎収入とするのが一般です。

 

大学進学が見込まれる場合には,大卒の平均賃金を基礎収入とすることもありますが,就労開始が遅れるため,労働能力喪失期間が短くなります。

 

5 失業者の場合

事故時点で就労していなかったとしても,将来も就労しないとはいえませんので,就労する蓋然性があれば,逸失利益は認められます。

基礎収入は,失業前の収入を参考としますが,失業前の収入が平均賃金以下の場合であっても,平均賃金を得られる蓋然性があれば平均賃金を基礎収入とします。

 

6 家事従事者の場合

家事労働には,現金収入はありませんが,経済的価値がありますので,家事従事者にも後遺症逸失利益が認められます。

基礎収入は,賃金センサスの女性労働者の平均賃金(産業計,企業規模計,学歴計,全年齢または年齢別)を用います。男性の家事従事者の場合も女性労働者の平均賃金を用います。

 

なお,兼業主婦の場合には,平均賃金と実際の収入額を比較し,高い金額を基礎収入とすることが通常です。

 

四 労働能力喪失率

労働能力喪失率は,後遺症を自賠責保険の後遺障害等級表・労働能力喪失率表(1級100%,2級100%,3級100%,4級92%,5級79%,6級67%,7級56%,8級45%,9級35%,10級27%,11級20%,12級14%,13級9%,14級5%)に当てはめるのが基本です。

 

もっとも,被害者の職業,年齢,性別,後遺症の部位,程度,事故前後の稼働状況,収入の減少等の事情から総合的に評価されますので,労働能力喪失率表どおりに労働能力喪失率が認定されるとは限りません。後遺症の仕事への影響が大きい場合には労働能力喪失表より労働能力喪失率が高くなることもありますし,後遺症の仕事への影響が小さい場合には労働能力喪失表より労働能力喪失率が低くなることがあります。

 

五 労働能力喪失期間に対応するライプニッツ係数

1 労働能力喪失期間

(1)原則

労働能力喪失期間は,原則として症状固定日から67歳までの期間です。

 

(2)高齢者の場合

67歳以上の高齢者の場合は,平均余命の2分の1の期間が労働能力喪失期間となります。

また,67歳未満であっても,症状固定日から67歳までの期間が平均余命の2分の1の期間より短い場合には,平均余命の2分の1の期間が労働能力喪失期間となります。

 

(3)18歳未満の場合

労働能力喪失期間の始期は症状固定日ですが,症状固定の時点では被害者が就労できる年齢ではないことがありますので,症状固定日が18歳未満の場合には,18歳から労働能力喪失期間が始まります。

そのため,被害者が18歳未満の未就労者の場合には,以下の計算式で計算します。

また,基礎収入は,賃金センサスの学歴計,全年齢の平均賃金を用いるのが通常です。

 

  後遺症逸失利益

=平均賃金×労働能力喪失率×(症状固定時の年齢から67歳までのライプニッツ係数-18歳までのライプニッツ係数)

 

なお,被害者が大学進学の蓋然性がある場合には,基礎収入は賃金センサスの大学卒・全年齢の平均賃金を用いますが,労働能力喪失期間の始期は大学卒業予定時となります。

 

(4)むち打ち症の場合

むち打ち症の場合には症状が永続するかどうか分かりませんので,後遺障害等級12級の場合で5年から10年程度,14級の場合で5年程度に制限する例が多いですが,後遺障害の具体的症状に応じて適宜判断されます。

 

2 中間利息の控除

(1)中間利息控除の基準時

中間利息の控除は,事故時とする見解や症状固定時とする見解等がありますが,症状固定時を基準時とするのが通常です。

 

(2)中間利息控除の利率

令和2年4月1日に施行された改正民法では,中間利息の控除についての規定が新設され(民法417条の2),将来において取得すべき利益についての損害賠償額を定める場合に利益を取得すべき時までの利息相当額を控除するときは,損害賠償請求権が生じた時点の法定利率を用います(民法417条の2第1項)。

また,改正前の民事法定利率は年5%に固定されていましたが,改正により,法定利率は,当面は年3%とし,3年ごとに見直されることとなりました(民法404条)。

そのようなことから,中間利息控除をする際の利率は,令和2年4月1日以降に発生した交通事故の場合,中間利息を控除する際の利率は年3%となります。

改正民法施行日前(令和2年3月31日まで)に発生した交通事故の場合は年5%で中間利息を控除します。

 

(3)中間利息控除の方法

中間利息の控除の方法には,ライプニッツ式(複利計算)とホフマン式(単利計算)がありますが,ライプニッツ式を用いることが通常です。

 

 

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