【交通事故】家事従事者の休業損害

2017-08-29

専業主婦等の家事従事者が交通事故により負傷して家事ができなくなった場合,休業損害が認められるでしょうか。

 

一 家事従事者に休業損害が認められるか

家事従事者とは,家事労働に従事する人のことです。性別,年齢は問いませんので,男性であっても家事従事者にあたりますし,高齢者であっても家事従事者にあたります。また,専業主婦だけでなく,兼業主婦であっても家事従事者にあたります。

家事従事者には現実に金銭収入はありませんが,家事労働は労働社会において金銭的に評価されるものであり,他人に依頼すれば相当の対価を支払わなければならないものですから,家事労働には経済的な利益があるといえます。
そのため,負傷により家事労働ができなかった期間がある場合,その期間について財産上の損害を被ったといえますので,休業損害が認められます。

 

二  一人暮らしの場合

一人暮らしの場合でも休業損害を認めた裁判例もないわけではありませんが,「家事労働」といえるには同居の家族等他人のために家事をしていることが必要であり,一人暮らしで自分の身の回りのことをしているだけでは「家事労働」と評価されず,休業損害が認めらない場合がほとんどです。
なお,一人暮らしの人が交通事故にあって家事ができず,家政婦を雇った場合には,その家政婦の費用が損害と認められることはあります。

 

三 家事従事者の休業損害の算定方法

休業損害額は1日当たりの基礎収入額に休業期間を乗じて算定します。
家事従事者の場合,休業損害額はどのように算定するのでしょうか。

 

1 基礎収入

(1)専業主婦の場合

家事従事者の基礎収入は,通常,賃金センサス第1巻第1表の産業計,企業規模計,学歴計,女性労働者の全年齢平均の賃金額(高齢者の場合には年齢別の平均賃金)を基礎収入として,休業損害を算定します。
例えば,平成27年の賃金センサスの女性労働者の平均賃金額は372万7100円ですので,1日当たりの基礎収入は,1万0211円(=372万7100円÷365)となります。

 

(2)兼業主婦の場合

パート等外で仕事をしながら,家事をしている兼業主婦の場合には,現実の収入額と女性労働者の平均賃金額のいずれか高い方の金額を基礎収入として休業損害を計算します。

 

(3)主夫(男性家事従事者)の場合

男性が家事労働を行う場合と女性が家事労働を行う場合とで経済的価値に違いがあるとはいえません。
そのため,男性の家事従事者の場合も,女性労働者の平均賃金額を基礎収入として,休業損害額を計算します。

 

(4)高齢者の場合

高齢者の家事労働は通常の主婦より労働量が少なく,経済的価値が低めに評価されることがあります。
高齢者の場合,女子労働者の全年齢平均ではなく,年齢別の平均賃金を基礎収入として休業損害を算定することがあります。また,平均賃金の何割を基礎収入として休業損害を算定することもあります。

 

2 休業期間

受傷日から治療終了日(症状固定日)までの期間のうち負傷により家事労働ができなかった期間が休業期間となります。
負傷の内容や程度が重大な場合には,受傷日から治療終了日(症状固定日)までの全期間が休業期間となることもありますが,むち打ち症等,負傷の内容や程度が重大とはいえない場合には,治療終了日(症状固定日)まで全く家事労働ができないということはないでしょうから,全期間が休業期間となるわけではありません。
家事従事者の場合には,給与所得者の休業損害証明書のように休業日数を把握する資料はありませんので,休業期間をどのように算定するかは難しい問題です。
例えば,①症状固定日までの期間の○○%,②入院期間中は100%,退院後,○か月間は○○%,その後は○○%というように,家事労働ができない割合を段階的に逓減させる等して,休業損害を計算することがあります。この割合については特段基準はありませんので,具体的な事情を基に合理的な割合を主張していくことになります。

 

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