【交通事故】健康保険の利用

2022-10-31

交通事故被害者が治療を受ける場合、健康保険を利用することができますが、どのような場合に健康保険を利用すればよいのでしょうか。また、健康保険を利用する場合には、どのようなことに注意すればよいでしょうか。

 

一 健康保険の利用

1 健康保険が利用できる場合

交通事故被害者が治療を受ける場合、自由診療によることが多いですが、健康保険を利用することもできます。

 

ただし、交通事故が業務災害や通勤災害にあたり、労災保険を利用できる場合には健康保険を利用することはできません(健康保険法55条1項、国民健康保険法56条1項)。また、被害者が無免許運転や飲酒運転等の故意の犯罪行為をした場合にも健康保険は利用できません(健康保険法116条、国民健康保険法60条)。

 

2 第三者の行為による傷病届

交通事故等、第三者の行為によって負傷した場合にも被害者は健康保険を利用することができますが、健康保険組合等の保険者が保険給付をしたときは、保険者は加害者に求償します。

そのため、被害者は保険者に対し第三者の行為による傷病届の届出をしなければなりません。

 

二 健康保険を利用すべき場合

健康保険を利用する場合、保険給付があるため、被害者は治療費の一部の負担で済みますし、高額療養費制度もあります。

また、一般に健康保険の診療報酬の単価は自由診療の場合より低いので、自由診療によるよりも健康保険を利用したほうが治療費が低額になります。

 

例えば、自由診療の単価が1点20円、健康保険の単価が1点10円だとすると、自由診療の治療費が80万円となる場合でも、健康保険を利用すれば治療費は40万円となります。また、健康保険の自己負担割合が30%だとすると、40万円のうち28万円が保険給付されますので、被害者の自己負担は12万円となります。

 

そのため、以下のような場合には、健康保険を利用することが考えられます。

 

1 加害者が治療費を支払わない場合

加害者が交通事故の責任を否定している場合や加害者が任意保険に加入していない場合等で加害者が治療費を支払わないときは、被害者は後で加害者に損害賠償請求することができるにしても、とりあえずは自分で治療費を負担しなければなりません。その場合、自由診療ですと、被害者は高額な治療費を負担しなければなりませんが、健康保険を利用すれば、治療費の負担を少なくすることができます。

 

また、加害者の任意保険会社が治療費を支払ってくれていたことから、被害者が自由診療で治療を受けていた場合であっても、保険会社から治療費の支払を打ち切られてしまうことがあります。そのようなときは、被害者は自由診療から健康保険に切り替えて治療を続けることが考えられます。

 

2 自賠責保険に被害者請求する場合

被害者が自賠責保険に被害者請求する場合、傷害の保険金の上限は120万円ですので、治療費が高額なときには治療費以外の損害について十分な支払を受けられないことがあります。

そのため、健康保険を利用して治療費を低く抑え、治療費以外の損害について支払を受けられるようにすることが考えられます。

 

3 被害者に過失がある場合

交通事故被害者が加害者に損害請求するにあたって、被害者に過失がある場合には過失相殺されるため、被害者は治療費のうち自身の過失割合に相当する部分を負担しなければなりません。

健康保険を利用した場合には、自由診療より治療費の額が少なくなりますし、治療費から保険給付を控除した後の金額(自己負担部分)について過失相殺を行うことから、被害者は自己負担部分のうち過失割合に相当する部分を負担することですみます。

例えば、先の例で被害者の過失割合が4割の場合、自由診療のときは、被害者は治療費80万円の4割にあたる32万円を負担しなければならなくなりますが、健康保険を利用したときは自己負担部分12万円の4割にあたる4万8000円を負担することですみます。

そのため、被害者に過失がある場合には、被害者は健康保険を利用することで、手元に残る金額を増やすことができます。

 

三 健康保険を利用する場合の注意点

前述のとおり、勤務中や通勤中の交通事故で労災保険が使える場合には健康保険の利用ができない等、事案によっては健康保険が利用できない場合がありますので注意しましょう。

また、健康保険を利用する場合には第三者行為による傷病届を出さなければならなかったり、加害者と示談するときには事前に保険者に連絡することが求められたりする等、手間がかかります。

さらに、健康保険を利用する場合には保険適用の治療しか受けられませんので、自由診療によるか健康保険を利用するかどうかで治療の内容に影響がでることがあります。

 

そのため、自由診療にするか、健康保険を利用するかどうか、具体的な事情に応じて検討することになります。

 

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