取扱業務案内 建物明渡請求事件

2014-05-31

建物明渡請求事件について、法律相談から解決までの流れを大まかに説明させていただきます。

 

事例

アパートの一室の賃借人が家賃を長期間滞納したので、大家さんは、賃借人に出て行ってもらいたいけれども、どうしたらよいか分からないため、法律事務所に相談に来ました。

 

一 法律相談に来られた場合

1 法律相談の際には、基本的に以下の点を確認させていただきます。

①当該建物の権利関係、賃貸借契約の有無

建物の明渡しを求める場合、賃貸借契約の終了に基づいて明渡しを求めるか、所有権に基づいて明渡しを求めることになりますので、建物の所有者が誰か、賃貸人が誰かを確認します。

②賃貸借契約の契約内容

建物の明渡しを求めるには、契約違反を理由に賃貸借契約を解除することが必要です。その判断をするためには、契約内容の確認が不可欠です。

③賃料の滞納期間、滞納額等の建物の明渡しを求める事情

契約書では、1か月でも滞納した場合には退去してもらう旨記載されていることが多いと思われますが、法的には、賃借人の生活を守る観点から、1か月程度の賃料滞納で契約を解除し強制的に出ていかせることは難しいです。

あくまでも目安としてですが、裁判で出て行ってもらう場合には、3か月以上の滞納が必要です。6か月以上の滞納があれば、解除ができる場合が多いと思われます。

賃料の滞納以外にも契約違反等の事情があれば、多少、賃料滞納期間が短くても賃借人に出て行ってもらうことができる場合がありますし、逆に、滞納期間が長くても大家さんが賃料の支払を猶予してあげた等の事情がある場合には、賃借人に出て行ってもらうことができなくなる場合がありますので、ご注意下さい。

④賃借人の経済状況、占有状況

賃借人に滞納賃料の支払いができる能力があるのかどうかを確認し、滞納賃料の回収方法を検討するため、賃借人の経済状況の確認が必要です。

また、賃借人が当該建物に住んでいるとは限らず、別の人が住んでいる場合があります。その場合には賃借人以外の人を相手方にしなければならなくなる等、今後の手続に影響を与えることになりますので、占有状況の確認は不可欠です。

⑤賃借人との交渉の経緯等

大家さんが賃借人と交渉した際に、賃借人がどのような態度をとったか、どのような主張をしていたか確認することで、賃借人の性格や状況、今後の賃借人の反応等が予想できます。

 

2 法律相談の際には、以上のようなことを確認させていただき、建物の明渡しを求めることができるかどうか、どのような手続を進めたらいいのか検討させていただきます。

賃料の滞納期間が短い等、具体的な事情によっては、建物の明渡しの実現は難しいのでもう少し様子を見るか、賃料の支払を求めるだけにとどめたほうがよいとアドバイスする場合もあります。

次に、建物の明渡しを求める場合に手続の流れを説明します。

 

二 内容証明郵便(賃料支払の催告と契約解除の意思表示)

1 事案にもよりますが、通常は、賃借人に対し滞納賃料の支払いを要求し(「催告」といいます。)、一定期間内に支払わない場合には賃貸借契約を解除するので、建物を明け渡せという趣旨の通知書を内容証明郵便で送ります。通知書を普通の郵便ではなく、内容証明郵便で送るのは、後で賃借人に対し契約解除の通知をしたかどうか争われないようにするためです。

2 内容証明郵便を送った後に賃借人から返答があった場合、賃借人との間で滞納賃料の支払いや建物の明渡し等の交渉をします。

3 内容証明郵便を送ったにもかかわらず、賃借人から返答がなかった場合や、あっても交渉がまとまらず、滞納賃料の支払がなかった場合には、いよいよ法的手続を取ることになります。

 

三 占有移転禁止の仮処分の申立

1 賃借人が明渡しを妨害してくるような悪質な場合や、誰が住んでいるのかよく分からない場合には、裁判所に占有移転禁止の仮処分の申立をすることが考えられます。

占有移転禁止の仮処分とは、賃借人等の不動産の占有者(債務者)が別の人に占有を移すことを禁止する手続きです。この仮処分をかけた場合、債務者が後で別の人に占有を移したとしても判決の効力をその人に及ぼすことができるようになります。

この仮処分をしておかないと、賃借人を被告とする訴訟を起こして勝訴判決を得ても、訴訟中に賃借人以外の人が建物に住んでいた場合には、改めて占有者を被告とする訴訟を起こさなければ建物の明渡しを実現することができなくなる場合があるからです。

2 なお、占有移転禁止の仮処分をかける場合には、申立をした債権者は、通常、債務者が損害を被った場合の担保として、保証金を供託させられることになります。

 

四 訴訟

1 次に、裁判所に、賃借人を被告として建物の明渡しや滞納賃料の支払を求める訴訟を起こします。連帯保証人がいる場合には、連帯保証人も被告とします。

多額の滞納があり、特に賃借人らに言い分がない場合には、比較的早く、大家さんの請求を認める判決を出してもらえます。

2 この判決が確定した後、賃借人が建物の明渡しや滞納賃料の支払をしなければ、強制執行の手続により、強制的に明渡し等を実現することができます。

もっとも、強制執行手続には、かなりの費用がかかりますし、賃借人に資力がない場合には、強制執行をしても滞納賃料を回収することができない場合もあります。

そこで、訴訟の場合でも、賃借人らと話し合いの余地があるのであれば、判決ではなく、和解で解決することが考えられます。

3 和解の場合、建物の明渡しを一定期間猶予したり、滞納賃料の支払方法(一括払ではなく分割払にする等)や支払金額等について賃借人らに一定の譲歩をすることになりますが、賃借人らも納得の上で和解をするため、賃借人が和解の内容通りに建物を明渡したり、賃料を支払ってくる場合が多いので、強制執行をする場合よりもトータルで費用が少なくても済む可能性があります。

 

五 賃借人の所在が不明の場合

賃借人が賃貸物件の中に荷物を残したまま所在が分からなくなり、全く連絡が取れなくなる場合があります。

大家さんが内容証明郵便で賃貸借契約を解除しようとしても、賃借人に解除の通知を受け取らせることができません。また、大家さんが賃借人に無断で、賃貸物件の中の荷物を捨てると、後で賃借人から損害賠償請求されるおそれがあります。

そのような場合、大家さんとしては、建物明渡請求訴訟を提起して、公示送達の方法をとり、勝訴判決を得てから強制執行をすることになります。公示送達とは、被告の所在が不明などの理由により送達書類を交付できない場合に、申立てにより裁判所書記官が送達書類を保管し、送達を受けるべき者にいつでもこれを交付する旨、裁判所の掲示場に掲示して行う送達方法です。

なお、連帯保証人がいる場合、連帯保証人に明渡しをさせることができるのではないかとも考えられますが、連帯保証人は滞納賃料等の金銭の支払義務は負いますが、明渡義務を負わせることまでは難しいと考えられますので、大家さんとしては、上記手続をとった上で、連帯保証人に金銭の支払を請求することになると思われます。

 

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